東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)155号・昭35年(行ナ)156号 判決
原告が、昭和三三年一〇月二一日、欧字「AZOSTAR」と邦字「アゾスター」とを左から右へ二段に横書きして成る商標および欧字「AZOCOPY」と邦字「アゾコピー」とを左から右へ二段に横書きして成る商標につき、原告主張のとおりの各登録出願をし(前者については同年商標登録願第二九九四九号、後者については同第二九九五〇号)、昭和三四年四月一三日に指定商品を旧第一八類複写機械、青写真用印画紙、陽画感光紙と訂正したが、同年四月三〇日附で拒絶査定を受け、これに対する各抗告審判(前者については同年抗告審判第一〇四六号事件、後者については同第一〇四七号事件)においても、昭和三五年一一月九日、それぞれ原告主張のとおりの各審決がされ、同月一九日その各審決書謄本が原告に送達されたこと、および右各審決の理由の要旨が、原告の指摘するとおり、本願各商標中の「AZO」および「アゾ」の文字は、その指定商品との関連上、訴外イーストマン・コダツク・コムパニーがガスライト印画紙について使用する著名商標「AZO」または「アゾ」を直感させ、本願各商標をその指定商品に使用するときは、あたかもその商品も上記イーストマン・コダツク・コムパニーの製造販売に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると判断せざるを得ない、というのであることについては、当事者間に争がない。
富山房発行の国民百科大辞典(昭和一一年版)第一巻第三一九頁に、「アゾ紙――(米)イーストマン会社製造販売に係るガスライト印画紙。使用は簡易で失敗が少いから素人用として焼付に好適、十数種ある」との記載があることは、原告において明らかに争わないところである。この事実に成立に争のない乙第一ないし第五号証(各証明書)をあわせ考えるときは、「AZO」および「アゾ」の文字は、米国イーストマン・コダツク会社製造販売にかゝる密着焼付用のガスライト印画紙の商標として著名なものであることを認めることができる。そして、右イーストマン・コダツク会社が米国の写真機、写真材料の製造会社として古い歴史を有し、その名はわが国においても写真専門家、愛好家の間に周知されていることは、当裁判所に顕著な事実である。
ところで、本願各商標は、右の「AZO」および「アゾ」の文字を顕著に含んでいることは、のちに認定するとおりであり、かつその指定商品中、青写真用印画紙および陽画感光紙は、用紙に感光材料を塗布して製造するものであることは、ガスライト印画紙と同じで、したがつて、その製造設備を共通にし得るものであり、また、複写機械も青写真用印画紙等と同一の目的のために使用するもので、機械と材料の関係にあり、したがつて、同一の場所、機会において取引されることも経験法則上予想されるところである。してみれば、これらの商品について本願各商標を使用するときは、その商品も亦前記著名のアゾ印画紙と同じ米国イーストマン・コダツク会社の製造販売にかゝるものであるかのような印象を世人に与え、商品の出所につき混同を生ぜしめるのおそれなしとしない。右の事由は旧商標法第二条第一項第一一号の「商品ノ誤認又ハ混同ヲ生ゼシムルノ虞アルモノ」に該当すると解するのが相当である。
原告は、密接不可分に結合され、相互に軽重の差異のない本願各商標の文字を分離して判断することは、失当である、と主張する。しかし、「AZOSTAR」、「アゾスター」および「AZOCOPY」、「アゾコピー」は、一語としてはなんらの意義を有する言葉ではなく、そのうち「AZO」、「アゾ」は前認定の著名商標、また「STAR」、「スター」および「COPY」、「コピー」もそれぞれ具体的な意味をもつ、きわめて普通の英語であるので、通常の取引者のそなえていると認むべき初歩の英語の知識を有するものは、容易にこれを「AZO」、「アゾ」と「STAR」、「スター」および「AZO」、「アゾ」と「COPY」、「コピー」の各両語を結合した造語であると推測するであろうし、その意味を判断するためにこれを「AZO」、「アゾ」と「STAR」、「スター」および「AZO」、「アゾ」と「COPY」、「コピー」に分離して認識し、かつそのように記憶することは、きわめて自然なことである。「AZO」、「アゾ」の文字は本願各商標の顕著な構成部分であるというべく、これによつてその登録を許すべきや否やを判断した本件各審決は決して違法ということはできない。
また、本件各審決は、引用商標の著名なことを認定した資料として昭和一一年版の国民百科大辞典を引いているが、それは右刊行物の発行当時著名であつたことのみを立証する趣旨ではなく、各審決当時にも著名であつた事実を立証する趣旨であることは、成立に争のない甲第三号証の一、二の右各審決書の文詞自体に徴して明白であるから、これをもつて旧商標法第二条第一項第一一号該当の事実を判断すべき基準の時期を誤つたとする原告の主張の採用できないことは、いうまでもない。
そして、弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第四号証の一(調査報告書)、前記乙第一、第三号証をあわせみれば、前記イーストマン・コダツク会社の製品であるアゾ印画紙は現在外貨制限のため輸入されておらず、一般店頭では販売されていない事実を認めることができるが、前記乙第一ないし第五号証を綜合すれば、イーストマン・コダツク会社では現在もなおアゾ(AZO)なる商標を附した写真用印画紙を製造販売しており、かつ右印画紙は戦前日本国内において取引され、その名はなお業者に記憶されている事実が明らかであるから、前記国民百科大辞典の記事と相まつて、右商標が本件各審決当時にもなお著名商標であつた事実を否定することはできない。
さらにまた、「azo」が化学用語としてアゾ基を有する化合物について接頭語的に使用されているということも、同時に「AZO」および「アゾ」の文字が前認定の著名商標であり、世人をしてこれを連想させるものである事実を左右するものではない。
本願各商標は、その指定商品中青写真用印画紙および陽画感光紙についてのみならず複写機械についても出所の混同を生ぜしめるおそれのあることは、前に認定したとおりであつて、それが必ずしも著名商標の使用商品であるガスライト印画紙と用途、販売場所、需要者等を同じくしないことも亦、右認定の妨げとならないものというべきである。
最後に、原告は、本件各商標登録出願が二類別にわたる商品を指定商品としてされたことは旧商標法第五条に違反するにもかゝわらず、本件審査および抗告審判の段階においてこれを是正させるなんらの処置がとられなかつたことは違法である、と主張するが、右各出願が同法第二条第一項第一一号に該当し、拒絶すべきものであること、前記認定のとおりであるから、仮に右各出願にその他の点に違法があつて、審決がこれを看過したとしても、結局右各出願を拒絶すべきものとした本件各審決を取り消すべき理由とするには足りない。